2012年3月8日木曜日

都会と香川の狭間で… 本格手打ち もり家


高松から南へ車で30分。 田んぼが終わり、徳島との県境の山々=阿讃山脈が近づき、それが丘陵として始まりだしたあたりの谷間に「もり家」は突然現れる。


香川といえども辺りにうどん屋はない。そこへの巨大駐車場と大店舗の出現、そしてそこへ連なる行列に違和感を感じることもあるだろう。

約十年前(平成13年)もり家は突然現れ、あっという間に立地条件をモノともしない人気店になった。



何故か。



止まっている車は半分は県外ナンバー。半分は県内であるのだが、県外の方には都会的で間違いなく美味しいうどんとして、そして県内の人には、タマには行きたい高級店として、どちらの立場の人にも貴重な存在であるからだ。

現在「主流」とされるセルフではなく、普通のレストラン形式である。テーブル中心の席にはゆとりがあり、基本的に相席もなし。

出てくる麺は極力茹でたて。

単価は高いが、茹でたて故に当たり外れがなく、回転が遅いので並びは長くなるが、一度席に着けばゆったりと楽しめる。



香川は押しも押されぬうどんの「聖地」だが、東京や大阪の都会(特に東京で)に比べると、時として驚くほどユルいうどん出てくる。

何故なら香川では、うどんを余りにも食べるため、1回のクオリティにはそれほど拘らない文化があるからだ。


昔からやっている店では茹で上げ後4、5時間経過した麺も普通に提供されることが多く、茹でたてに当たった場合とのギャップは非常に大きい。それでも余程酷いのが連続して出てこない限り、不味い店というレッテルは貼られない。


香川も小さいとは言え資本主義国家の一部であるから(笑)、競争原理は働くのは当然であるが、伝統に基づいた県民の驚くべきうどんに対する寛容さにより、うどん聖地のうどんレベルは実はもの凄い上下差がある。



一方都会では、資本主義の競争原理にもろに晒されるため、どこもかしこも茹でたてである。そして気合が入っていて実に美味しい。


そのため、都会でビシッとしたうどんを食べ来た人は、本場であるはずの香川に来たにも拘わらず、うどんを「柔らかくて不味い」と感じてしまうこともままあるようだ。


ただ、僕みたいに香川の幅の広さになれてしまっていると、競争原理によって磨かれた都会のうどん(特に東京。大阪はバリエーションが広い)は、車が空力と、パッケージ効率と、マーケティングによって、アランドロンが乗っていた宇宙船みたいなシトロエンも、50年代アメリカで流行ったバカみたいな飾りのついた、やたらデカイ車もみんな消えて、どれもこれも同じ様な顔つきになってしまったことだったり、お米をどんどん磨いていった結果、大吟醸はどの銘柄を飲んでも殆ど同じ味になってしまっている日本酒の様な味気なさを感じるのである。


各店舗、そこで工夫を凝らし、色々食材や調理法に凝ってみるのだが、これがまた「脱個性」を謳った教育を受け、自らも脱個性化を目指すべく服装、頭髪等に様々な工夫を凝らしているにも拘わらず、傍目から見ると全く皆同じに見えてしまう若者のように、一見個性的だが、奇をてらっているのがありありと透けて見える店も多い。



閑話休題。
これはマニアの話として、一般論に話を戻そう。


都会のビシッとして、ぶれのないうどんに慣れた方々が安心して食べられる、支払いに対する間違いない価値を持ったうどんがコンスタントに提供されるのがもり家である。


従って、このきちっと感があまり香川県民には好まれないのだが、やはり美味いものは美味いのであるし、上記したように家族連れでもきちんと「食事をした」という感じが得られることもあって、香川県民にとっても時々は行きたい店であるのは間違いない。


それで両方から指示されているのである。なかなか貴重な店だ。



もり家の大将は「かな泉」で修行した。今は見る影もないかな泉であるが、昭和の時代、讃岐うどんのリーダーだったのは間違いなくかな泉である。

セルフではなく、フルオーダー。レストランみたいなゆったりした席、美しい内装、と食器。そして盛りつけ。


写真を見て頂きたい。美しい盛りつけである。

いわゆる「麺線」を気にしたもりつけであるが、都会では当たり前でも、香川でこんなことをやっている店は実に少ない。

かな泉→もり家又はおか泉、というかな泉ラインが発祥であるのは恐らく間違いがないだろう。



マニアックを至上とする「恐るべき讃岐うどん」から火が付いた讃岐うどんブームにより忘れ去れてしまった、伝統的なさぬきうどんの一つの世界がそこにはあった。


詳しくは分からないが、香川から輸出され、既に都会で開花していた都会的うどん文化の逆輸入的エッセンスも入っているのかもしれないが、ともかく香川にありながら、都会化を夢見たうどん、それがもり家だろう。



10年後の現在、弟子の一人が実際に東京のど真ん中、人形町にやってきて、極めて都会的な美しさとクオリティのうどんを出す「谷や」を開いたのも必然だったのかもしれない。




香川県高松市香川町川内原1575-1
087-879-8815

10:30~20:00
木曜日定休