2013年6月13日木曜日

柳久保小麦+不動うどん@東久留米

昨今のうどんブームで、東京でもうどんが見直されている。


見直された結果、

実は東京では古くから蕎麦よりも饂飩の方が親しまれていた、

というようなことも言われ始めている。


それがあながち饂飩派のゴリ押しではないのは、饂飩を沢山食べる地域が

現存していることからみても、確かなことであると言えるだろう。


高度に資本主義化した都市部は、情報、ブームによって店が動く。

ここで主流なのは勿論蕎麦だ。これは疑いない。


しかし、直線で20キロも離れると、江戸時代から、

麺と言えばウドンだった、という地域が、

特に東京の西部には沢山ある。

更にもう少し離れた、関東平野は、加須、羽生、高崎、前橋、桐生と、まさに饂飩天国である。


これらの土地は香川と同じく、戦後の蕎麦・ラーメン至上主義の

時代をひっそりと、しかし土地にしっかりと根付いて生き残り、

讃岐うどんブームをきっかけに訪れた饂飩の波によって、再び日の目を浴びようとしている。


ところで、この地域の饂飩と、讃岐うどんの大きな違いは何か。

つけ汁が主流の東京と、かけうどんが主流の香川という違いや、

麺の太さなど、様々な要素があるが、

この平成の現在、一つ大きな違いとして言えるのは

香川の饂飩の主流はオーストラリア産であるのに対し、

東京周辺の古くからのうどん屋さんは国産を好んで使用している店が多いということだ。



香川のうどんは、ツルツルで色白なことが求められる。

喉越し、なる言葉で評価されることが多いことから分かるように、香川では

ずるずるっ! と一気に啜れるしなやかさが重要だ。

讃岐うどん=コシ と言われることも多いが、

コシと、しなやかさは、讃岐うどんを語る上で絶対に外せない二大要素で、どちらかだけでもダメだと思っている。

さて、この、コシとしなやかさ、そして色白には、オーストラリア産が最も適しているのだ。

香川の饂飩も昔は白くはなく、食感ももそもそとしていたという証言はいくらでもある。

戦後急激に各店舗がしのぎを削るように、コシ、しなやか、色白を追い求めた結果、

殆ど全ての店がオーストラリア産を使用するようになったということらしい。


一方

東京周辺のうどんは、色黒、極太で、数本ずつもぐもぐと噛んで食べる、まさに小麦粉を練ったもの!

というような風情のうどんが多い。

香川の様な食べ方をしたら、窒息して死にそうになる上に、胃もたれを起こしそうなうどんだが、

小麦の香りが高く、しっかりした、麺そのものに深い味わいのあるうどんを、じっくりと噛んで食べるのは、非常な喜びである。

この様なうどんには、国産が適している。

というより、国産の小麦で作ると基本的にこの様なうどんになるから、昔そのままに作っているだけだとも言える。


香川は田舎で、住んでいると嫌になるくらい保守的なのだが(笑)、饂飩県だけあって、うどんだけは保守では無く、常に最良と、県民の理想を追い求めた結果、小麦の産地などには拘らなくなった。
ひたすらな理想主義が産んだ饂飩といえよう。


それに対し、常に日本の先端を走り続けてきた筈の東京であるが、最先端だったのは都心部だけで、ちょっと離れると香川以上に保守的なうどんがゴマンと残っているのは非常に不思議な感じがする。



さて、前置きが長くなったが、今回は東京のご当地小麦

柳久保小麦

の話である。




江戸時代に開発されたこの小麦は、東京、神奈川で広く栽培されていたそうだが、

戦前に姿を消した。

国産小麦大好きな東京でも栽培されなくなった。

代わりに栽培されたのが、国産小麦のスター、現在も横綱の

農林61号である。

さて、何故柳久保小麦が栽培されなくなったのか。

理由は上の写真をじっくり見ると分かる。

主に2点ある。


1、背が高い。

一見良さそうだが、風で倒れる確率が高い。

よって、今の小麦は品種改良で、なるべく背を低くします。

あと、昔は麦わらの用途が沢山あったので、背が高いことは材料が豊富に取れることも意味しており、重宝がられたが、

麦わらを使用しなくなった現在は、不要品の処理に困らない、という点でも短い方がいい。



2、穂が短い

要するに、1本当りから取れる粒が少ない、ということです。

これは相当重要なことで、一つの穂あたり10粒違っても、数百ヘクタールという規模で考えると、

大変な違いになります。

植え付け、刈り取りなど、同じ労力で10%程度多くの収穫が得られるわけで、10%は上に書いたように、大量作付けを考えたときには大変な違いとなって現れる。


こんな理由から、栽培されなくなった柳久保小麦。

農家の片隅で、ひっそりと眠っていたタネを、町おこし用に復活して、今盛り上げ中。



店内に飾られている小麦。この写真を見ると、相当背が高いのが分かる。



色々な商品を作っているようだが、もともとうどん用だったこの小麦、

饂飩に使わなきゃ意味が無い、

でも、結局うどん屋は、この小麦の原価が高すぎて誰も使わない(笑)

プロはやはりシビアです。


さて、こんな時に力を発揮するのは誰か?

採算度外視で、町のため、とか、楽しいから

という理由で動くのは誰か?

そう、アマチュアであります。




ということで、鉄工所経営の不動氏が、自宅の庭先にプレハブを建設。


これが、幻の小麦、柳久保小麦100%使用の「不動うどん」である。


ツルツルで、色白が好きな人に向け、ちょっとオーストラリア産に近い北海道産も用意するが、

狙うは当然柳久保。

不動さんもメニューに出しておきながら

「北海道産は食べても面白くないよ」

と言い切る(笑)



茹であがりを待つこと暫し。

これが伝説のうどん!!


肉汁に付けて食べる、伝統的関東スタイル。

麺のアップ


ちょっと色黒なのがおわかり頂けるだろうか。

それにしても、素晴らしい艶!!


箸休めには、自家製の梅干しをどうぞ!

ということで、あっという間に頂いてしまいました。

帰りは、こんな長閑な風景の中を歩きます。



みなさん、行ってみたくなったでしょう~



最寄りの東久留米駅まで

徒歩30分。

営業は、金・土・日の11時~15時です。

相当厳しいですが、小麦の歴史と、アマチュアの心意気が味わえます。

是非!

東京都東久留米市前沢3-4-3

042-476-6696